今、アニメーション制作の現場で「ゲームエンジン」という新技術の導入が検討されています。

ゲームエンジンとは、言ってみればゲーム世界を作るための「箱庭」です。ゲームクリエイターはその箱庭の中にキャラクターや小道具、背景を置き、動きや当たり判定を設定してゲームを作ります。物理法則はゲームエンジン側で設定されており、「ここで爆発」と設定すれば、リアルな爆発がそこで表示されます。

ただし、ゲームエンジンが出力する画像はこのようなレベルで、映像作品として視聴に足るかは意見が分かれるところでした。


(https://www.giantbomb.com/halo-combat-evolved/3030-2600/user-reviews/2200-20860/)

しかし、近年はGPU(グラフィックカード)の性能が急速に向上し、それに合わせてゲームエンジンが出力する画像の質も向上しました。2015年前後になると、初期のPIXAR作品やディズニー3DCG作品のレベルに届き、出力画像が映像作品としても視聴に足るようになりました。そのため広告に映像美で人の目を引き付けることを目的とした映像の制作にも、ゲームの出力をそのまま使うという事例も出てきました。

ゲームエンジンはともかく、3DCGでは爆発表現や落下表現が現実の物理に忠実になってしまうがゆえに派手な演出が難しいという問題もありましたが、最近は演出のために物理法則を曲げるという「演出重視物理エンジン」の開発も進み、ゲームエンジンへの搭載の事例も出てきています。

 

ゲームエンジンの映像制作側へのメリットもいろいろ検討されています。

まず大きいのが、3DCGに対して「レンダリング」がほぼ要らず、背景はもちろんのこと、あとからキャラクターの3Dモデルを置換したりも可能なことがあります。つまり、とにかく棒人間でざっくり大枠を作って細部を追加していくという、制作側としては非常にやりやすい形で作品を作れることになります。また、ゲームエンジンで作られたアニメーション作品は、同じデータを使ってそのままゲームを作ることも可能です。

このあたりのメリットは、SEGA傘下の「マーザアニメーション」というスタジオがいろいろ検討しています。
https://www.gamebusiness.jp/article/2015/11/02/11580.html

 

一方で、ゲームエンジンの教育現場での応用も検討されています。特に、ARやVRを使った教材は、ゲームエンジンが非常に有効で、すでにUnityやUE4がデファクトスタンダードになっています。

教育現場で使うことのメリットとして、ただのCG画像や動画という形での表示では受動的にならざるを得ないところを、ゲームエンジンで表示すれば、生徒が別の方向から見たり、ゲームエンジン内蔵の物理エンジンを使って、何らかの実験やシミュレーションができる、というのがあります。より能動的な学習ができるようになることが期待されています。

具体的には、昆虫や分子模型のような複雑な形をAR表示することで回転や縮小拡大を可能にし、3次元的な形状の理解を促す、複数人が同じものをAR空間中で別アングルから見えるようにすることで、討論ができるようにする、などがあります。


( Microsoft公式より: https://www.microsoft.com/en-us/hololens/commercial-overview )

教材製作ツールとしてゲームエンジンは優秀ですが、では生徒がゲームエンジンを使って理科のシミュレーション実験を行ったり、成果発表などのコンテンツを作るのはどうでしょうか。

これについては難度が高いと言われています。今あるゲームエンジンではC#の習得が必要だったり、3DモデルやCGの知識が必要だったり、利用するのに必要な事前知識や技術が多すぎるからです。また、一般的に特定のソフトの利用方法を学校で教えるのはあまり現実的ではありません。

ただしここれはインターフェースの問題でしかない、という言い方も可能です。コンピューターもアイコンやマウスといったグラフィカルインターフェース(GUI)により、何も知らない素人が扱えるようになり、教育現場も利用できるようになりました。大量の事前知識を教える必要がなくなった時に初めて、生徒がゲームエンジンをコンテンツ制作に使うという状況が一般化するでしょう。

その状況を実現するものは何かと言われると、おそらくARやVRを使った直感的な出入力インターフェース、そしてコンテンツ制作ソフトが鍵になりそうです。